ホタルイカの生態

春の夜、富山湾の波打ち際を青く染めるホタルイカ。ふだんは深い海で暮らすため、まだわかっていないことも多い生き物です。

このページでは、光るしくみや一生、「身投げ」の謎まで、これまでにわかっていることをまとめました。

基本データ

  • 学名:Watasenia scintillans
  • 分類:ツツイカ目 ホタルイカモドキ科
  • 大きさ:胴の長さは雄が約4cm、雌が約6cm。雌のほうがひと回り大きい
  • すみか:日本海を中心とした日本近海。昼は水深200〜600mの深い海にいる
  • 寿命:約1年
  • 別名:マツイカ、コイカ
  • 富山県のさかな:1996年(平成8年)にブリ・シロエビとともに指定

名前の由来

富山ではもともと「マツイカ」と呼ばれていました。1905年(明治38年)、動物学者の渡瀬庄三郎が富山で発光を観察し、ホタルのように光ることから「ホタルイカ」と名付けました。

学名の Watasenia は渡瀬の名前から、scintillans はラテン語で「きらめく」という意味です。

光るしくみ

ホタルイカの体には、光を出す発光器が3種類あり、どれも体の腹側に集まっています。

腕の発光器

腹側の2本の腕(第4腕)の先に3個ずつ、計6個。長さ1.4mmほどと最も大きく、強い光を一瞬だけ放ちます。

眼の発光器

左右の目の腹側に5個ずつ、縦1列に並びます。胴の長さ1.5cmほどの子どものうちに、もうできあがっています。

皮膚の発光器

腹側を中心に700〜1000個ほど散らばり、弱い光をぼんやりと出し続けます。

光のもとは化学反応

光のもとは、発光物質(ルシフェリン)と酵素(ルシフェラーゼ)による化学反応です。昆虫のホタルと同じく、熱をほとんど出さない「冷たい光」です。

なぜ光るのか

はっきりとはわかっていませんが、次のような役割があると考えられています。

  • 身を守る:敵に襲われたとき、腕の先を強く光らせて相手を驚かせ、目をくらませるとされます。網に触れたときに光るのもこの光です。
  • 影を消して隠れる:深い海では、下から見上げると、海面からのわずかな光に体の影が浮かび上がります。腹側を光らせて影を消し、敵に見つかりにくくしていると考えられています(カウンターイルミネーション)。
  • 仲間との合図:仲間どうしの合図や、群れでの行動に役立っている可能性もあります。

※浜で見る強い青い光の多くは、腕の発光器によるものです。

色を見分ける目

イカやタコの仲間の多くは、光を感じる細胞が1種類しかなく、色を見分けられないとされています。

ところがホタルイカの目には、光を感じる物質(視物質)が3種類あり、青・水色・緑を見分けられる可能性があります。暗い深海で、仲間や敵の光をわずかな色の違いで見分けているのかもしれません。

1日の動き

ホタルイカは、1日のうちに深い海と浅い海を行き来しています(日周鉛直移動)。

  • 昼:水深200〜600mの暗い海で過ごす
  • 夕方〜夜:海面近くまで上がってくる。産卵期の雌は、夜のうちに産卵する
  • 明け方:ふたたび深い海へ戻っていく

富山湾の漁はこの習性を利用し、浅いところへ上がってきたホタルイカを沿岸の定置網でとらえます。船を出すのは、まだ暗い午前2時半ごろです。

1年の一生

ホタルイカの一生は、ほぼ1年です。

  1. 春(4〜6月ごろ)

    海に産み出された卵が、富山湾の水温で2週間ほどでふ化します。

  2. 夏〜冬

    沖で、昼は深く夜は浅くと上下に移動しながら、プランクトンなどを食べて育ちます。

  3. 翌年の2月ごろ

    大人になり、雄が雌に精子の入ったカプセルを渡す「交接」を行います。

  4. 3〜5月ごろ

    雌は夜に浅いところへ上がって産卵します。「身投げ」が見られるのはこの時期です。

  5. 産卵のあと

    産卵を終えた雌は一生を終えます。生まれてからほぼ1年です。

※産卵数は1回に数千〜1万個ほどとする資料が多いものの、差があります。

「身投げ」の謎

産卵の時期、浅いところへ上がってきたホタルイカが波打ち際に打ち寄せられ、青く光る。地元ではこれを「身投げ」と呼びます。岸で見られるのは、ほとんどが雌です。

ただ、なぜ岸まで来てしまうのかは、まだわかっていません。浮上したところを波や流れに運ばれるという見方が一般的ですが、産卵の前か後かも資料によって説明が分かれます。

風や潮、月明かりなど、身投げが多い夜の条件にも、はっきりした答えはまだありません。

なぜ富山湾なのか

ホタルイカは日本海に広く分布し、水揚げ量では兵庫県が富山県を上回る年も多くあります。ただ兵庫県では沖の底びき網でとっていて、群れが岸辺で光る光景が見られるのは富山湾ならではです。

理由として有力なのが、富山湾の地形です。富山湾は岸からすぐ深くなる「すり鉢」のような形をしています。この地形で海の底から上へ向かう流れ(湧昇流)が生まれ、ホタルイカを岸近くまで運んでいる、という説です。ただし、確かめられた事実ではありません。

国の特別天然記念物「ホタルイカ群遊海面」

富山市水橋(常願寺川の河口)から魚津港近くまで、約15kmの沿岸の海面が「ホタルイカ群遊海面」として国の特別天然記念物に指定されています。範囲は、大潮の満潮時の波打ち際から沖合約1.3kmまでです。

生き物ではなく「海面」が指定されている、珍しい例です。

ホタルイカと人の歴史

  1. 1585年(天正13年)

    滑川でホタルイカ漁が始まったという言い伝え。裏付ける史料はありません。

  2. 1858年(安政5年)

    滑川沖で「小烏賊」が獲れたと記す古文書。確認できる最古の記録です。

  3. 1905年(明治38年)

    動物学者の渡瀬庄三郎が発光を観察し、「ホタルイカ」と名付けます。

  4. 1912年(明治45年)

    滑川でホタルイカ漁を見せる観光が始まります。

  5. 1922年(大正11年)

    「ホタルイカ群遊海面」が国の天然記念物に指定されます。

  6. 1952年(昭和27年)

    国の特別天然記念物に格上げされます。

  7. 1996年(平成8年)

    ブリ・シロエビとともに「富山県のさかな」に指定されます。

魚津市ではホタルイカを、蜃気楼・埋没林と並ぶ「魚津三大奇観」として大切にしてきました。春には、ほたるいかミュージアム(滑川市)や魚津水族館で生きたホタルイカの発光を見られます。

実際に見に行くなら、時期や場所の理解と道具などの準備が必要です。

ホタルイカ掬い完全ガイドに戻る